“会社の強み”を見つける5つのポイントと事例
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会社の売却をする事前準備の磨き上げでは
1)会社の情報を整理する作用
2)会社の強みをつくる作業
大きく分けて2つの磨き上げの作業を行いますが、ここでは、実際にどのようにして会社の強みを見つけていくのかをまとめました。

会社の強みはどんなことをして見つければいいの?

M&Aの現場では会社のどんな点が評価されるのかはさまざまです。実際にどんな点を見ていけばいいのか事例とともにご紹介しますね。
これまでの中小企業のM&Aでは、業種や業態にかかわらず、次の3つの特徴を持つ会社が高く売れると認識されていました。
儲かっている・・・安定して営業利益が1億円以上出ている
規模が大きい・・・売上20億円以上の商圏を持っている
成長している・・・売上が毎年20%以上成長している
しかし、最近の傾向としては、これからご紹介する5つのポイントを評価する傾向が高くなってきています。
この記事の目次
チェックポイント1)取引先
会社は小規模であっても、上場企業や大手企業、優良企業と直接取引きをしている場合、会社の強みになることがあります。
それは、新たに取引口座を開く労力やコストをかけるよりも、すでに信頼関係が構築されている会社を買収したほうが、買い手側は手っ取り早くビジネスを展開することができるからです。
【事例】大手上場会社との取引が「強み」に

この事例は、取引審査が厳しい金融機関と直接取引をしていたことが評価されて会社を売却することができました。
会社データ |
・売上 :1億円 ・収益 :0~1000万円 ・従業員:5名 ・業種 :システム開発 |
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売却成功 ポイント |
売上規模も小さく、銀行からの借入もあり。利益水準も特筆すべきところはなかったが、取引審査の厳しい金融機関と直接取引をしていたことが評価されて、従業員100名を超える同業のシステム開発会社に1億円で売却 |
買い手会社は、いわゆる二次請け、三次請けと呼ばれるIT技術者の派遣会社です。100名近いシステムエンジニアを、大手ITベンダーの一次請け会社に派遣していました。
大手に限らず、上場企業はコンプライアンスが厳しく、労働基準法の問題にもナーバスになっているため、二重派遣や偽装請負などの問題が発生するリスクを抑えるため、二次請け、三次請けの会社は、よほどのことがない限り大手企業に新規の取引口座を開いてもらえません。
買い手側にとっては、すでに取引口座があるこのシステム会社を買収することで、今後、一時請け会社として直接取引をすることができるようになりました。
審査の厳しい大手上場企業との継続的な取引きが会社の強みになり1億円で会社を売却
チェックポイント2)顧客リスト
顧客リストが会社の強みになるのは、主にBtoCの事業になります。
このとき、注意したいポイントが「不特定多数の一般顧客」を相手にしている場合です。いくらお客様の人数が多くても、ただそれだけではM&Aでは価値を見出すことはできません。
こうした不特定多数の一般顧客の場合、顧客層を細分化していくことで会社の価値を発見することができます。また顧客の規模が大きいほど会社の価値になりますが、最低でも3万~5万人ぐらいは必要だといわれています。
買い手側にとっては、顧客リストは「使い道があるか、ないか」のみの一点にかかっています。性別や年齢層、職業、年収というように細かいカテゴリーに分けて「使える化」する必要があります。
【事例】50~60代の女性層が会社の「強み」に

インターネット通販の化粧品会社で、50~60代の女性の顧客を数万件抱えている会社を、20~30代向けの基礎化粧品や健康食品を製造している通販会社に売却した事例になります。
会社データ |
・売上 :3億円 ・収益 :3000万円 ・従業員:5名 ・業種 :インターネット通販の化粧品会社 |
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売却成功 ポイント |
50~60代の女性の顧客を数万件抱えている会社が、20代~30代向けの同業の通販会社に売却 |
買い手側は20~30代向けの基礎化粧品や健康食品を製造・販売をしている会社になります。若い世代の女性の消費はさまざまなものに分散する傾向があり、購入単価や継続率の低さに買い手側は課題を抱えていました。買い手側は、高額な商品を継続購入できる富裕層を囲い込んでいることを評価して会社売却が成立しました。
購買余力の高い富裕層には、他の商品も販売できる可能性も高いため、数百万人や数十万人という顧客リストは必要なく、数万件であっても十分に会社の強みとして評価されます。
顧客リストは性別や年齢、職業、年収というように細かいカテゴリーに分けないと会社の強みにはならない
チェックポイント3)従業員
従業員の業務知識や業務経験を高く評価されるケースは多くあります。
単純に何人の従業員がいて、どのような仕事をしているかだけではなく、各個人や各ユニットがたどってきた遍歴が思わぬ価値として評価されることもあります。この場合、従業員の平均年齢が高くてもマイナスの材料にはなりません。
むしろ、高齢の従業員が蓄積してきた経験や知識の深さ、特定の顧客などは、驚くべき会社の強みへとつながる可能性があります。
従業員のシステム開発スキルが「強み」に

ある上場企業が、別の上場企業のシステム部門の特殊な業務知識を持っている従業員を狙って買収した事例になります。
会社データ |
・上場企業のシステム部門 ・従業員:20名規模 |
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売却成功 ポイント |
業務経験、業務知識、特殊な技術が評価されて会社売却が成立 |
過去に携わってきた業務経験、業務知識の深さ、特殊な技術などのほかに、技術者の多くが大規模なシステム統合に関わっていた経験のほかに、一部の技術者は、昔ながらの汎用機システムの統合に豊富な経験があったことが評価されてM&Aが成立しました。
20人の従業員のうち5人は60歳前後です。通常の感覚だと、IT業界で60歳前後の従業員に価値を見出す発想はありませんが、広く深い知識がないとできない仕事もあり、この点も評価されたポイントになります。
従業員の業務知識や業務経験を高く評価されるケースは多くある
チェックポイント4)シェア
市場シェアは、会社の価値をかなり左右する重要な要因です。たとえ、ニッチなマーケットだったとしてもトップシェアの実績があれば、赤字の場合でもすぐに会社を売却することができます。
ここで大切なことは、買い手会社に明確に伝えることができるように、ある条件下におけるシェアを整理して数値化することです。
【事例】ニッチな市場でもシェアが「強み」に

マーケットの規模にもよりますが、シェアが10%もあれば買い手会社を見つけることは難しくありません。
会社データ | ・中古自動車のネット売買 |
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売却成功 ポイント |
インターネット上という狭義のマーケットでほぼトップシェア |
この中古自動車のネット売買の会社に目をつけたのが、一見無関係な金融事業参入を検討していた会社になります。
この会社を買収すれば、自動車保険やオートローンという切り口から、新規分野になる自動車関連の金融事業に圧倒的なスピードで参入できるからです。
顧客基盤もしっかりしていて安定収益も見込める事業、さらに、損保事業への参入優位性を評価されたこの会社は、最終利益の20年分に近い破格ののれん代が上乗せされ、巨額の会社売却が実現しました。
シェアが低い会社の場合はどうすればいい?
シェアが低い会社の場合、会社を売却することはできないのでしょうか。ケースバイケースですが、トップのシェアでなくても市場の競合状況によっては会社を売却することができます。
地方で葬儀社を営むA社は、売上げ2億円前後、借入金5000万円前後という会社でした。県下でのシェアは10%弱、トップシェアにはほど遠い状況です。
ところがこの県には、シェアを30~40%を持つ突出した2社がありました。この2社にしてみれば、A社を買収すればいっきにシェア10%弱を獲得することができ、県下においてトップシェアになることができるため、A社は望外の条件で会社を売却することができました。
たとえニッチなマーケットでもトップシェアの実績があれば、赤字であっても会社を売却することが可能です。
チェックポイント5)特許・技術・情報
過去に何を作ってきたか、それはどういう技術なのか。特徴的な特許や技術、ノウハウは買い手側にわかりやすく理解できるように整理しておくと有効です。
ただし、特許に関しては注意が必要です。特許を取得しただけでは、経済的価値に結びつく要因にはならないからです。特許の価値が認められる場合は、その特許が「確実に利益を生む」という根拠があるときだけになります。
【事例】蓄積されたノウハウが会社の「強み」に
会社データ |
・売上 :3億円 ・収益 :赤字 ・業種 :医療関係のシステム開発 ・備考 :医療を取り巻く変化に対応できるかという不安を抱えているため会社売却を決意。 |
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売却成功 ポイント |
医療という特殊な現場でのスピーディーな在庫管理、チェック機能といった細部にわたりきめ細かいシステムが実現されている他社にはない独自のシステムの長所が浮き彫りに。 特許があるわけではないが、他社が簡単に追随できないノウハウがあり、これを評価した医療システムの大手ベンダーが1億5000万円で売却。 |
これは医療関係のシステム開発会社の事例になります。負債はないかわりに資産もゼロ。このままでは医療を取り巻く変化に対応できるのかという不安を買懸けていました。
調査をしてみると、売上げは微減しているものの、他社にはない独自のシステムの長所がわかりました。特許があるわけではありませんが、他社が簡単には追随できないノウハウがあり、これを評価した医療システムの大手ベンダーに1億5000万円で会社を売却することができました。
過去に手がけた技術や集めた情報、獲得したノウハウ、知的財産を整理すると、会社の強みにつながります。

いろんな側面から会社の強みを見つけていくんだね!

会社の強みを見つけて、その強みを買い手側に伝えるための「見える化」をすることがポイントにもなります。