事業承継に伴う税金で使える公的制度や融資制度
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親族内承継の場合だったら相続・贈与によって取得したときの納税資金や、親族外承継の場合なら株式の買取資金など、事業承継にはさまざまな資金が必要になります。

事業承継に伴う資金調達が困難になった場合、特例を適用すれば低い利率で有利を受けることができたり、諸要件を満たせば納税期間が猶予や免除される公的制度を利用することができます。
この記事の目次
経営承継円滑化法

事業承継に伴う相続税や贈与税が多額になる場合や、資産の多くが不動産などの現金化しにくいといった場合、税金の納税を猶予してもらえる制度に経営承継円滑化法というものがあります。(※利用にあたっては諸要件があります。)
経営承継円滑化法は以下の支援をしています。
経営承継円滑化法の支援内容 | |
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1) | 税制支援(贈与税・相続税の納税猶予及び免除) |
2) | 金融支援(中小企業信用保険法の特例、日本政策金融公庫等の特例) |
3) | 遺留分に関する民法の特例 |
支援の内容によって申請先が違うので注意が必要です。
*1)税制支援、2)金融支援は各都道府県で認定をされます。
*3)遺留分に関する民法の特例は中小企業庁で確認をされます。
納税猶予の要件
納税の猶予を受けるためには、さまざまな要件があります。
主な要件 | 満たせなかった場合 |
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後継者が会社の代表である | 全額納付 |
雇用の8割以上を維持している | |
後継者が筆頭株主である | |
上場会社、風俗営業会社に該当しない | |
納税猶予対象株式を継続して所有している | |
資産管理会社に該当しない |
主な要件 | 満たせなかった場合 |
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納税猶予対象株式を継続所有している | 譲渡した株式の割合分だけ納付 |
資産管理会社に該当しない | 全額納付 |
*相続税・贈与税共通
上記のほかにも、会社の要件、現経営者の要件、後継者の要件などがあります。要件を満たせなくなった日から2ヶ月以内に利子税とともに納付しなくてはいけません。申告前によく確認をしておく必要があります。
中小企業庁:経営承継円滑化法
相続時精算課税制度

高齢者から若年者層へ早期に資産を移転して、経済を活性化させようという目的で作られたのが相続時精算課税制度になります。
後継者に株式や事業用資産を贈与したとき贈与税が発生しますが、贈与税には「相続時精算課税」と「暦年課税」の二つの課税方式があります。
相続時精算課税制度は、自社株や不動産を生前贈与することができます。暦年贈与の非課税枠が110万円(年間)なのに対して、この制度を利用すると累計で2,500万円までが非課税枠となるのが特徴です。(※2,500万円を超えた部分については税率は一律20%となります。)
ただし、贈与者は60歳以上の親または祖父母、対象者は20歳以上の子どもや孫でなければいけないなど、利用するにあたっては条件があります。
また、暦年贈与から相続時精算課税制度へ移行することがはできますが、相続時精算課税制度を一度利用すると、暦年贈与へ戻したり併用することは出来ません。
国税庁:相続時精算課税制度

暦年贈与は、毎年1月1日から12月31日までの間に110万円までの財産贈与ならば、税金がかからない(非課税)制度になります。110万円の基礎控除額が毎年使うことができるので、少額ずつ贈与すれば、金額の制限なく非課税で贈与することができます。(*ただし、相続開始前3年以内に贈与された財産は課税対象になります)
暦年贈与と相続時精算課税の比較
暦年贈与 | 相続時精算課税制度 | |
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贈与者 | 制限なし | 60歳以上の親または祖父母 |
対象者 | 制限なし | 20歳以上の子どもや孫 |
課税価格 | 贈与財産をすべて合計 | 相続時精算課税を選択した贈与者ごと |
非課税枠 | 年間110万円 | 累計2,500万円 |
税率 | 110万円を超えた場合は税率10~55% | 2,500万円を超えた額の20% |
贈与税の計算 | (課税価格-110万円)×(税率10~55%)-(0-400万円*) *直系尊属から20歳以上への贈与では0~640万円 |
(贈与者ごとの課税価格-2,500万円)×20% |
贈与税の確定申告 | 年間110万円以下の贈与は申告不要 | 贈与税額がゼロでも申告が必要 |
課税方式の変更 | 暦年課税方式→相続時精算課税方式への変更可能 | 相続時精算課税方式→暦年課税方式への変更不可 |
相続時精算課税制度で生前贈与を効率よく行うことができますが、暦年贈与と比較して利用の検討しなくてはいけません。外部の専門家に相談するのも良いかと思います。
日本政策金融公庫から低金利で融資
親族内承継でも、親族外承継でも、条件を満たせば日本政策金融公庫から低金利で融資を受けることができます。(*沖縄県の場合は沖縄振興開発金融公庫)
融資を受けることができるケース
融資を受けることができるケース | |
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1) | 会社または個人事業主が、後継者の不在などにより事業継続を困難となっている会社から、事業や株式の譲渡などにより事業を承継する場合 |
2) | 会社が株主から自社株式や事業用資産を買取る場合 |
3) | 後継者である個人事業主が事業用資産を買取る場合 |
4) | 経営承継円滑化法に基づく認定を受けた会社の代表者個人が、自社株式、事業用資産の買取りや相続税・贈与税の納税などを行う場合 |
融資の条件 | |
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融資限度額 | 7億2,000万円 |
融資利率 | ケースによって利率が異なる。標準的なケースは3.5% |
*日本政策金融公庫の場合
*融資期間5年の場合。上記は標準的なケースの利率。担保の有無などの条件が変わると利率も変わる可能性があります。
日本政策金融公庫:事業承継・集約・活性化支援資金
信用保証協会の保証枠が別枠で利用可能
事業承継に必要な資金の融資を受ける場合、信用保証協会の保証が必要になります。すでに別の借入で保証枠を使っている場合は、あらたに別枠で利用することができます。
通常 | 別枠 | |
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普通保険 | 2億円 | +2億円 |
無担保保険 | 8,000万円 | +8,000万円 |
特別小口保険 | 1,250万円 | +1,250万円 |
*代表者個人は信用保証協会の保証対象となりません。
融資・保証制度を利用するためには、経営承継円滑化法にもとづく経済産業大臣の認定を受けることが必要です。
特例のある贈与
子どもや孫の世代に資産を移すために有利な制度が拡充されています。
教育資金贈与 |
祖父母から孫への教育資金贈与は1,500万円まで非課税になります。
国税庁:贈与税No.4510 |
住宅取得資金贈与 | 両親、祖父母からの住宅取得資金贈与は一定の金額が非課税になります。(*平成27年1月1日から令和3年12月31日までの期間)
国税庁:贈与税No.4508 |
結婚・子育て資金の贈与 | 親から子への結婚・出産・育児資金の贈与は1000万円までが非課税になります。
国税庁:贈与税No.4511 |
教育資金贈与と住宅取得資金贈与は、相続開始前3年以内の贈与であっても課税対象になりません。

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